[開催報告] ロジカルに聴くとチームが変わる~どこからそう思う?そこからどう思う?~

9/29(日)京都造形芸術大学にて、アートコミュニケーション研究センター(ACC)と経営学習研究所(MALL)の共催セミナー「ロジカルに聴くとチームが変わる~どこからそう思う?そこからどう思う?~」を開催し、私は講師のひとりとして登壇した。関西から、関東から、ビジネスパーソンや教育関係者を含め、多様なバックグラウンドを持つ23名の方にご参加いただいた。

今回のセミナーは、京都造形芸術大学を中心に実践されている鑑賞教育プログラム「ACOP/エイコップ」を働く大人向けにアレンジしたもので、MALLとの共催企画としては1月の「ギャラリーMALL:〈対話型鑑賞〉を人材育成に活かす」(SHIBAURA HOUSE)に続くものである。1月のセミナーではACOPがチームビルディングにもたらす効果に注目したが、今回はそれに引き続き、「チームが変わる」ことを引き起こすナビゲイターの「ロジカルに聴く」力を身につけるため、ナビゲイター体験を中心にプログラムを構成した。


はじめに、京都造形芸術大学の福のり子先生からACOPの紹介をしてもらった後、僕からは、「チームが変わる」ためになぜACOPなのかについて、『ダイアローグ~対話する組織』などを引きながら、大人の学びの文脈に引きつけてお話させていただいた。「チームが変わる」ために職場にアート作品を持ち込む理由として「どんな意見も受け入れる懐の広さ」「人のこと、自分のことがみえてくる」「建設的な相互作用が生まれやすい」という3つのことを解説した。


まず、ウォーミングアップも兼ねて、「伝える」「聴く」ことがいかに難しいかを実感するため、京都造形芸術大学の北野諒さんによる「ブラインド・トーク」のミニワークショップを行った。2人1組になって、1人はアイマスクをして、もう1人がみている作品を言葉にして相手に説明するというものである。アイマスクを取ると、あまりにも想像と違うことに参加者から驚きの声が漏れる。ふりかえりでは「説明する側の立場が上で、聴く側が下という印象があるが、実は二人で作り上げていくゲームなのでは」という意見も出た。


続いて、京都造形芸術大学の伊達隆洋さんのナビゲイトで、ACOPの作品鑑賞を体験してもらった。作品は《カラカラ帝》。ACOPではおなじみの作品なので、何度目かの鑑賞の方もいらしたようだが、「こんな人を上司に持ちたいですか?」という福先生からの問いかけで、場が活性化した。「オレオレ系なんだけど、いざというとき頼りにならなさそう」「私たちのことをみてくれなさそう」「でも、かっこいいし、僕ならついていきますね」などの意見が出た。作品を自分たちに引きつけることで、人の考え、自分の考えがみえてくるのが、ACOPのおもしろさのひとつである。


午後からは、実践の時間である。「ロジカルに聴く」ための最も重要なコツのひとつは、FactとTruthをきちんと聴き分けることである。Factは疑いのないひとつの事実であり、Truthは鑑賞者それぞれにある解釈のことである。セミナーのサブタイトルに表されている「どこからそう思う?」は鑑賞者のTruthに対してその根拠となるFactを問うものであり、「そこからどう思う?」はあるFactについてその印象を問うものである。この問いかけを駆使することで、根拠にもとづく意見を促したり、ひとつの根拠について複数の可能性を引き出したりするのがナビゲイターの役目である。これを踏まえて、数名ずつのグループに分かれて参加者全員にナビゲイションを体験してもらった。聴くは易し、行うは難しということを、実感を持って理解していただけたのではと思っている。

岡崎大輔さんのファシリテートによる全体ふりかえりでは、関係性をフラットにするアート作品の意義を実感したという感想があった一方で、「そこからどう思う?」という問いかけが難しいという意見があった。この問いかけには、ひとつのFactから複数のTruthを導く問いとしての「そこからどう思う?(レベル1)」と、そこまで出てきた印象や感想をすべて踏まえての「そこからどう思う?(レベル2)」がありうる。また、この問いの言い回しは「そこからどう思う?」に限ったものではない。「この人を上司に持ちたいですか?」も、「そこからどう思う?」のパターンである。その意味で今回のセミナーは、やや高度なことを参加者の方に求めていたと言え、ナビゲイションについては消化不良感が残った方もいらっしゃるかもしれない。おそらく、最も大事なことは、最後にノートに書いていただいたように、今回の経験を明日からの職場での取り組みにつなげていくことである。

私はMALLの理事であり、ACCの研究員でもあるので、二つの立場からこのセミナーに関わることになった。

MALLでは、「働く大人の学びをデザインする」「日本を学習大国にする」というミッションのもと、私自身は「大人のアートの学び」を担当する理事(自称)として、おもに東京で活動を行ってきた。今回、自身の活動のコアにあったACOPについて、多くの方と一緒に話し合う機会を持つことができてとてもよかった。今回のセミナーには「職場のチームビルディングに役立てたい」「自分でもナビゲイションができるようになりたい」と参加していただいた方が多くいらした。このように、自分で取り組むべきことを見つけ、それを実践するビジネスパーソンが増えることが、「日本を学習大国にする」ことにもつながる。私自身は、今回のセミナーで、ビジネスの現場でACOPに取り組む“仲間が増えた”という感覚である。

そして、ACC研究員としての今回のセミナーの収穫は、「聴く」ことに正面から向き合うことができたことにあると思う。対話型鑑賞が普及しはじめた頃のアメリア・アレナスの著書が『みる・かんがえる・はなす』であったように、対話型鑑賞のメソッドとして「聴く」ことは当初、明確な形で重視されてはいなかった。そんな中で「ロジカルに聴く」ことを追求し、「どこからそう思う?」というベーシックな問いの表裏をなす「そこからどう思う?」という、ある意味でチャレンジングな問いかけを加えたことが、ACOPのオリジナリティと言えるだろう。

今回の成果を踏まえ、さらにパワーアップした企画を、これから練っていきたいと考えている。ご参加いただいたみなさま、ありがとうございました。

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