理論と実践の往還の中で:VTSJ STEP3 に参加してきた!(上)


3月末、自主的に春休みを取って、VTSJ Step 3に参加してきた。京都造形芸術大アート・コミュニケーション研究センター主催で、対話型鑑賞法VTS(Visual Thinking Strategy)の開発者の一人Philip Yenawine氏を招いて行われたセミナーの第3弾である。僕はStep 2に続いて、オブザーバーとしての参加である。

VTSとは、対話をしながらアート作品を鑑賞することを通じて、鑑賞者・学習者の「観察力」「批判的思考力」「コミュニケーション力」を育成するプログラムである。1980年代にMoMAでひな形が作られ、その後Philip Yenawine氏により現在の形に発展した。

実践上級編となるStep 3は、VTSの背景にある美的発達段階と、ファシリテーションにおける理論と実践のかかわり、Step 2に続いてのシークエンスづくりの実践、そして、VTSの応用と、筆記サンプルを用いた評価といった内容であった。セミナーに参加しての感想を2回に分けてまとめておこうと思う。

■美的発達段階について

ファシリテーションの実践に力点が置かれていたVTSJ Step 2のときは、「3つの問いしか使わない」と言い切るVTSと、場をみながら適宜情報を提供するなど、柔軟に問いを構成するACOPとのファシリテーション手法の表面的な違いに目が行っていたが、Step 3では、その手法がどのような背景理論を持ってそうなっているのかについて、じっくり考えることができたように思う。

アビゲイル・ハウゼンが彼女の博士論文(1983)で提案した「美的発達段階」とは、以下の5つの段階で構成される。

Stage I: 物語の段階/accountive stage
Stage II: 構成の段階/constructive stage
Stage III: 分類の段階/classifying stage
Stage IV: 解釈の段階/interpretive stage
Stage V: 再創造の段階/re-creative stage

今回のセミナーでは、世の多くの人がそのレベルに留まっているという、Stage IからStage IIの話がおもになされた。

美的発達段階ごとのADI(Aesthetic Development Interview)サンプルの特徴をていねいにみていくことにより、ハウゼンの考え方を以前より深く知ることができたと思う。発達段階がIからIIになるということは、Iの特徴がIIではより「高度」なものに置き換えられるということではなく、使える思考パターンのオプションが増えることだと考えるべきだ、という点は、Philipも繰り返し指摘したところである。しかし「自分の美的発達段階はいくつなのか?」という参加者の素朴な問いは、どこかで「IよりもIIが、IIよりもIIIが良い」という無意識の前提に基づいている。まずはこの考え方を棄却しなければならない。

たとえば、学校教員チームから「岡本太郎のとある作品が思春期には向かないのではないか」「私はそうは思わない」という議論があった。これをアメリカと日本の文化差であると説明することもできるが、まず、美的発達段階I/IIとは何か、発達段階を引き上げる最近接発達領域とはどういうものか、ということを考えるべきである。

美的発達段階Iの最大の特徴は「accountive: 列挙すること、物語ること」にあり、美的発達段階IIの最大の特徴は「constructive: 自分なりの理解を構成すること」にある。それぞれの発達段階において、作品の視覚要素をていねいにみていくことで、鑑賞者はどこまで到達可能なのか。意見が言えないわけではないが、その意見があまりにも的を外している場合、彼ら/彼女らにその作品を見せる意味はあるかどうか。「物語ること」が鑑賞のきっかけとなる作品ばかりではない。逆に、学芸員チームから提示された「ラス・メニーナス」のように、「物語ること」だけでも、ものすごい対話の深まりが期待できる作品もある。

このように、発達段階について、IよりもII、IIよりもIIIというように、線形で不可逆的なものと考えるのではなく、出現するカテゴリのマトリックスの中の「組み合わせ」として捉えるという考え方は、発達段階説の現代的な理解であると言える。その意味で僕は、今回のStep 3で、VTSとACOPが理論的にようやくつながってみえてきた。そんな中で僕(たち)がすべきことは、VTSの理論を消化して、新しい対話型鑑賞の理論を立ち上げることだと思う。使えるところは、使っていくべきなのだ。

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